2016 IRODORISAI 彩り祭

art8.24 wed.-8.29 mon.

アートとサイエンスの融合。
中村元風の「グレイズ」は注目

生物学の研究者の経歴をもつアーティスト・サイエンティストの中村元風氏。「陶磁は、アートとサイエンスの融合」との信念のもと、試行錯誤を繰り返しようやく実現した理想の形が「グレイズ」です。ラボ(工房)における膨大な研究・実験から生み出された、これまでにない輝きにご注目ください。

「グレイズ」 輝きはチャレンジから生まれる
The Glaze: challenge behind the birth of the shine.

クリエイティブ・ディレクターに近衞忠大氏を迎え、映像とともにご紹介します。
□8月24日[水]〜29日[月]
□新宿店本館1階=ザ・ステージ

中村元風「Torus」 1点限り 756,000円
(グレイズ(磁器)/直径18.5×高さ18cm)
□新宿店本館1階=ザ・ステージ

INTERVIEW

中村元風 _ なかむら がんぷう

1955年生まれ。金沢大学大学院理学研究科生物学専攻修了。生物学の研究者の経歴をもつ、アーティスト・サイエンティスト。2010年、国立上海美術館での大規模な個展を成功させるなど、国内外で発表の場を広げている。

__もともと中村先生は大学院で生物学を研究されていたそうですが、陶芸家を目指したきっかけを教えてください。
小さい頃から生き物が好きで生物学の研究者になったのですが、大学院で実際にやっていたことは、動物の個体数を数学的に解析するという研究でした。研究を進めるにつれ、自分が思い描いていた理想と異なり違和感を感じ始めていた頃、陶芸家である祖父が生き生きとした動物達を壺や皿に描いているのを見て、自分の進むべき道はこれだと確信しました。
__「グレイズ」を完成させるまでの苦労や印象的な出来事などがあれば教えてください。
「グレイズ」を完成させるということは、歴史上いまだかつて存在しない秞を創造するということです。新たな発明といってもよいでしょう。かつて存在した秞を再現することとは本質的に次元が異なります。不可能を可能にしないかぎり決して実現できないのですから。それゆえ、自分が生きているうちに完成させられるだろうか、気力や資金は持つのだろうか、そんな不安と常に隣り合わせでした。ただ、必ず実現できると自分に言い聞かせていたので、苦労と感じたことはありません。
「グレイズ」は些細な条件が非常に大きく影響する釉です。創り上げるうえでは、伝統的な秞とはまったく別物にとらえる必要がありました。常識をいかに覆すかを常に求められるといってもいいと思います。同じ調合をしているにもかかわらず色がまったく異なったり、透明になるはずのものが乳濁してしまうということが頻繁に起こるのです。当初、その理屈が理解できず、ずいぶん悩んだのを覚えています。こうしたなか、工房を造り替える必要を感じ、研究・実験環境を根本から刷新することにしました。たとえば、以前ならば水は水道水を用いていたのですが、現在は蒸留水を使用しています。また、原材料を計測するスケールは当初0.1g単位のものを利用していましたが、現在は0.0001g単位まで計測できる風防付きのものが欠かせません。
印象的な出来事としては、あるとき窯の火を止めるべきタイミングの直前に、友人から深刻な電話がかかってきたことがあります。その友人と話し込んでしまい、窯の火を止めることを忘れてしまったのです。温度が上がりすぎてしまったため、間違いなく失敗だと思ったのですが、意外なことにとても美しく焼き上がっていました。その温度が、現在の標準の焼成温度となっています。この経験を通じて、イノベーションとは偶然の失敗から生まれることを学びました。
また、秞薬研究は常識や思い込みとの闘いです。常識として定着している伝統的なやり方の正反対が実は正解だということがいくつもあり、その事実を受け入れるのに時間がかかりました。一例を挙げれば、釉を焼成する場合、伝統的にはなるべくゆっくり焼き、ゆっくり冷やすことが定石となっています。しかし「グレイズ」を焼成するには、急熱急冷がベストなのです。急熱急冷をするというのは、なにかいい加減な気がしてしまい、心理的になかなか納得できなかったのを覚えています。
__「グレイズ」をはじめ「ガンプーグリップ」「ふくら手」など、古九谷の技法にこだわらず数々の独自技法を編みだしていらっしゃいますが、先生にとって「伝統」と「進化」、「アート」とはなんでしょうか。
私は「進化」とは永遠に続くものだと考えています。「伝統」とは「進化」するために超えていくべきハードルといえるでしょう。「伝統」として歴史的に受け継がれたものに対して感謝と尊敬の気持ちを忘れてはなりませんが、「伝統」を超える「進化」を遂げることが今に生きる者の使命だと思います。
また、「アート」とは「輝きの創出」だと考えています。アートとは、アーティスト独自の世界の描写を作品という形にし、それによって人々を元気にすること、つまり生命を輝かせることなのです。
__今回のザ・ステージでは、お客さまにどんなところを注目してほしいですか?
私にとってこの世で最高の輝きとは、雨上がりに日光を受けてきらりと輝くみずみずしい水滴です。「グレイズ」は、この水滴の輝きを永遠化したいとの想いで生まれました。今回の「グレイズ」展では、歴史上存在しない究極の輝きをもつ「グレイズ」をぜひ体感してほしいと思っています。まるで生き物のような躍動感で輝くグレイズ作品をご覧になることで、より元気な気持ちになっていただければ幸いです。

INTERVIEW

近衞忠大 _ このえ ただひろ

1970年生まれ。クリエイティブ・ディレクター。「日本の文化をクリエイティブに世界と結びつける」を信条に、番組、プロモーションビデオ、 ファッションブランドの大型イベントなどの制作に携わる。一方で、宮中歌会始にて講師(こうじ=和歌の読み手)もつとめる。

__今回の演出のテーマ・全体コンセプトについて教えてください。
〈Glaze = 釉薬〉
言うまでも無く今回の展示は釉薬が主役です。
中村元風作品の特徴であるこの釉薬の美しさ、そしてその美しさの背景にあるものをいかに表現できるか、それが今回の展示の挑戦でした。
〈サイエンスとアート〉
先生の作品はアートという数値化しにくいものでありながら、その背景には長い年月をかけた研究、トライアル&エラーといった非常に科学的なアプローチがあります。
サイエンスとアートという、対極にある二つの要素のコントラストを出すことが空間演出のテーマです。ラボのような衛生的な空間、その中にある生き物のような輝きを持ったアートという対比を狙っています。
〈水〉
陶芸は水と土を混ぜることによって自由に形を変えることができ、焼くことによって水を飛ばしてその形を半永久的なものにします。そういった意味で完成した作品は水を一切含んでいないにも関わらず、水の存在無しに存在し得ません。そこで水を象徴的に展示に使用しています。
〈光〉
作品の美しさを引き出すためには照明が欠かせません。しかし照明を直接当てることで輝きを強調しても、この作品の世界観を表現しきれないと思い、拡散光を使って全体に均等に光を当てることで独特の色、瑞々しさ、そして躍動感を表現しています。
(自動車のカタログ写真、ファッションモデルのスタジオ写真のように、陰影の強弱が少なく、全体に光があたっているような効果を狙っています。)
__今回のザ・ステージでは、お客さまにはどんなところを注目してみてもらいたいですか?
陶芸作品、陶芸の個展をご覧になったことが無い方はいらっしゃらないと思いますが、先入観を良い意味で裏切る展示を目指しました。こんな空間で、こんな照明で…陶芸作品を見るとこんなに見え方が違って面白い…という印象を持っていただければ幸いです。
__彩り祭のテーマは「優しい未来」ですが、近衞さんにとってのアナログ、デジタルとはなんでしょうか。
アナログ放送からデジタル放送の過渡期にテレビや映像の仕事をしていたので両方の良さが良く解ります。しかしアナログであろうとデジタルであろうと、すべてのメディア、表現において人間が作ったという温もりや、優しさが最終的には求められるのだと思います。
__今後、クリエイティブ・ディレクターとして挑戦したいことを教えてください。
日本の美、匠の技を世界に紹介したいというのが最大の目標です。
ずば抜けて美しかったり、超絶技巧によって作られているけれど、その凄さが英語で世界に伝わっていないが為に注目されていないプロダクトや、商品をデザイン、パッケージング、そして多言語によるPRによって世界に伝えていきたいと思っています。
そういう意味では、世界有数の釉薬技術を持つ中村元風先生の作品を、これまで以上に海外に紹介するというきっかけになればと思っています。